Where is dogooooo Chapter 5
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夜。部屋のスイッチの補助光だけが灯台みたいに光っている。
あれを押してみて、明かりがつかなかったらこれは夢だ。
そういえばここは何の音もしない。付けているはずのエアコンの作動音も、降る予定の雨の音も、隣で寝ているはずの子どもの寝息も。
部屋は真っ暗で、私はお腹が空いていて、眠れなくて、仕方ないので本当に暗い、夜の海のことを思い出している。
黒の、本当の黒さのことを知りたいけれど、それはこの地球上にはないんじゃないかなと私は思っている。
でもそのことについて、つい考えてしまう。
朝。プラスチックのコップに水を注いで、その中の小さな気泡を見逃さないように3秒間だけ息を止めた。
朝の光はこの台所の窓にまっすぐ射すので、昼の日の光よりも実は強い。
子どもの食べ残した朝食を処分したら、仕事前に私は今日もドグーをつくる。
あまり片付かない部屋の片隅で。3Dソフトの中で。それらに自分の記憶の欠けらを少しずつ与えていった。色やディテールに。大したものではないけど、自分にしか与えられないであろう些細な日常を。
昼。仕事はいつも忙しい。
夕。子どもを迎えに行く。天井のエアコンに吸い寄せられた風船に、ピンポン球を投げて風船を落とす遊びに夢中になっている。
なかなか帰りたがらないのを引き剥がし、スーパーに寄ったり寄らなかったりして、家までの小さな坂道を登って帰る。
道は西向きでちょうど夕日に向かって登ることになる。
子どもは大抵空の話をするのが好きだ。雲の形や味について。夕日の色について。追いかけてくる月について。
本当の黒さがもしあるとしたら、それは空の向こうにあるだろうとふと思う。
夕飯の支度をしたら、また少しドグーを作る。それをブロックチェーンに刻むことによって、いずれ、空の向こうの本当の黒さに触れることができるだろうか。
ドグーを作ることは祈ることに少し似ている。ここには存在しないと思っているけど、諦めることができない、そういう何かを呼び寄せたいという気持ち。
そしてまた夜が来る。ベッドで子どもと向き合って話す。瞳に私が映る。私の瞳には子どもが映る。向かい合った鏡みたいに延々とお互いを映し出す。まるで延々と過去が、そして延々と未来がそこに連綿と続いているかのように。
その中のほんの一点の接点である、とても小さな瞳。
昨日眠れなかったぶん、今日は多分眠れるだろう。
それが私の1日のすべて。